幸せへのチケット(後編)

人は死が終止点であると想定する。だが本当に死とは「終わり」を意味する宣言でしかないのだろうか?

確かに生物的な観点でみればそうだ。夏になって土から出てきた蝉は、都会じゃ一週間もすれば死骸となって道端に転がっている。私たちもそんなにもあっけない「生物世界」の運命に縛り付けられているのだろうか。

それは違う。なぜなら人間は生物という枠を超えた領域に「自己の世界」を築いているからだ。

ゆえに蝉とは違って人々は多様なドラマのなかを生きている。何かを演じたり、何かを目的としたり、それらは蝉が求愛するだけの行為とはまったくかけ離れた次元にある。

ん? それは答えになっていない? いいやそんなことはないのだよ。

18.

そもそも蝉が死んでいるということでさえも、人間が独自に築いた領域によって映されているものだからだ。捕獲を怯える動物の姿もそう。その姿、怯えているという認識でさえも人間の見解にすぎない。

それどころか、その動物とやらは本当に存在しているのだろうか。

以前も話したが、存在する犬として人間に正式に認められた種の数は現在344種類だ。343でもなければ345でもない。これは人間の世界にとって必然のことであるけども、では「どうして344種類」なのだろう。それは「偶然そうである」としかいえない。

しかしその「偶然」とはなんだろう。

19.

偶然とは制御できない「手に負えないなにか」であるはずだ。

だがこの犬の話からすれば、まるで偶然を自ら呼び起こしているようにみえる。大きな何かから344種の犬が切り分けられて、まさにそれを「偶然344種類だ」と言っているように聞こえる。

ならば犬とはなんだろうか? つまり犬という名前を人間が与えて、それを犬だと呼んでいるにすぎないのだ。

もし彼らからその名前が取り払われたらどうなるのか。得体の知れない生物? いやそうにはならない。そもそもその犬らしき何かはこの世から消える。人間はそれを識別できなくなるのである。ここにゲームの原理がある。

もちろん私は怯える動物の姿を己の心に創り出している。だから動物に優しくする。怯えさせないように、友好的でありたいと「私は」そのように思っている。つまりそのような世界(ゲーム)を私は築いている。

20.

もともとある誰かの創ったゲームに参加されられるのか、それとも自らゲームを創り出すのか、ということだ。

恋愛もそうだね。

恋とは相手を好きになることにおいて始まるが、好きとはいったいどういうことであって、そしてその相手はどうして他の相手とは特別の扱いをされるのだろうか。

求愛者はその摩訶不思議な秘密を探るために、その相手に接近する。それが恋心というものだ。だが相手の心を掘り起こすほど、何も見つからない。当初の輝きはどんどん失せていく。どうしてだろうか。確かにそこに宝物の光が漏れ出していたはずなのに。

つまり相手に秘密などなかったのだ。

その「秘密」のようにみえていたのは、恋愛というゲームによって作り出されていた幻であって、つまり「恋愛をする」ということが「好き」の本質なのである。

この意味がわかるかね。「じゃあ相手は誰でもいいの?」と言うならあなたは理解できていない。そうではなく、恋愛行為という能動性(自分からそうであること)によって、相手を「好き」で居続けられるのだ。

決して相手に「秘密」があるわけではなく、その秘密によって惹きつけられているのではないのである。

21.

よってここでも分析ができる。恋愛は野球と同じ、そのルールによって勝敗が生み出されるものであって、勝つために野球という手段があるのではない。相手をものにするために恋愛という手段を経るのではないのだ。

恋愛という行為に「遊ぶ」からこそ、相手のことが好きなのである。そこを混同するから恋愛やらなんやらに苦しむはめになるのだ。つまりどんな小さな現実であれ、自らそれをやり出すのと、それに参加させられるのは大きな違いがある。

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