明るい死者の世界

他者と関わるとき、どんなにスムーズに会話が運んでいるときであっても、妙な苛立ちやもどかしさを感じていることがあるだろう。相手が誰であれ、同じ部屋にいるだけで異質な重さがある。その落ち着かなさはなんであるのか。また逆に恋愛中の恋人同士や気の合う仲間といるときは、会話がなくても穏やかな空気が流れていることがある。それはなぜか。

あなたはそうした表面に振り回されて、自分を満たしてくれる相手ばかりを求め、そして自分を不安にさせる相手を拒絶していく。だがそうやって他者に安堵を求めている以上は、一生をそのドラマのなかでさまよい続けることになる。

会社であれ家族であれ、隣に立つ見ず知らずの他人であれ、その不安感は他者に原因があるのではないのだ。これはあなたが「人間」である以上は直面し続けなければならないことであり、そしてあなたが「自分」という呪われた不幸から解放されたいならば、乗り越えなければならないハードルなのである。

1.

では話を進めていこう。

映画でもいいし実際の光景でもいい。2人の人物が会話をしているシーンを観察してほしい。するとみえてくることがある。

会話は確かに一連の流れに沿っているようにみえる。だがよく観察していると、彼らは相手に話しているつもりでいるが、その意思はまったく相手に届いていないことがわかる。互いのそれぞれが自分の話について自分で納得しているという、いわば「独り言を話し続けている無関係な他人同士」が、そこに立っているだけだという様子がそこにある。

互いにひとりで話し、自分の話した言葉を相手に「聞いてもらいたい」という願いだけが、闇のなかで虚しく消えていく。

彼らは夜に包まれている。その夜から抜け出たくて、相手に助けを求めているようにも感じられる。

それが「対話」なのだ。

もちろんあなたもそうだ。

家族なり友人なりと話をしているとき、この話を思い出してみるといい。あなたと相手のあいだには途方もない断絶があることを知るだろう。

2.

思いを伝えようとするとき、それは己を取り囲む夜からの自由を目指しているのであり、よって相手から満足のいかない返事を受けると、ますますあなたは闇に取り残された感覚になる。そうしてムキになる。

だがいいかい、相手がどれだけ肯定的な態度を示したところでそれは同じなのだ。あなたは自分で納得しているだけなのであり、その虚しさをいつも心の奥底で感じている。

言葉という伝達手段はいつも不自由だ。あなたは自分の思いを完全に伝えることはできず、どれだけ努力を続けても相手にそれを受け取ってもらうことはできない。

だがそれは己を孤独の闇から救い上げてもらえないからとか、そういうことではない。他者との共感において会話そのものの内容は関係がないということだ。

これについては手記の最後にまわすとしよう。まずはその「孤独の闇」とはなんであるのかを知っておく必要がある。

3.

人間というのは、何の目的もなくここに存在している。世界中の誰もがそうだ。自分がいまここに存在していることに、何の意味も理由も見つけることはできない。仕事や支払いといった約束事はそうしたゲームに参加しているだけのルールでしかない。それらは社会の概念にすぎず、自分が「ここにいること」への直接の理由にはならない。

だがこのことに気づくというのは、人間にとって「とても怖いこと」となる。自分が何の理由もなく存在しているということとは、この無限に広がる漆黒の宇宙のなかにひとり放り出されている事実を受け取るということ、つまり自分が猛烈に孤独な存在であることを認めるということだからだ。

だからいくらひとりになりたいからといって「完全に人間としての外界を断ち切ること」は、実践することは難しい。人間というのは、他者や他の何かを通じて自分を確認している存在であり「ひとりになれた」という時点では「ひとりになれている」と確認できる他の何かがそこにあるからだ。やはりそこにある事物を通じているし、そこに単にまだ関わりが薄い他者がいるだけでしかない。

やがてそれらとの関係も深くなる。するとあなたはまた息苦しさにもがきはじめる。

つまり一切の「他」が存在しない世界というのは、それはもはや自分はこの世に存在していないということであり、自分が自分であることを知るためには「他の何か」になり続けなければならないということだ。人間の自己意識のシステムとはそれがそのまま社会のシステムとなっているのである。

4.

逆に言えば、人間というのは仮象のものでしかないということである。自分から一切の「他」を取り払うと何も残らない。その不安から逃れるように人間は自分の体を不自然に変形させてきた。たとえば髪型だったりファッションだったり、部族のタトゥーなどもそうである。

裸のままの体というものは、常に自然とともに風化し、やがて消えていく定めにあるという不安そのものであり、人間はその事実から逃れたいという欲求が根底にあるといえる。つまり常に「自分」を確認できるようにしておきたいわけだ。

また承認欲求やら自己の存在証明なんかに振り回されるのは、そうして改変して作り出した自分が崩れ去ってしまうことへの恐怖からだ。

だがそうして崩れ去ることから逃げ回るのではなく「崩れ去る」というのはどういうことなのかに目を向けなければならない。

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