七夕の夜空に出会うもの(後編)
秦の始皇帝
紀元前の中国は長きに渡る覇権争いが続いていた。うんざりするような血なまぐさい戦国時代が何百年も続いた結果、紀元前3世紀に秦の始皇帝が中国全土を統一して絶大な支配権を手に入れた。道教はそんな現世利益ばかりを求める当時の中国の人たちのまったく真逆の教えにあった。
たとえば老子が書いたといわれる「老子道徳経」にはこのようにある。
「学びは重ねるほど習得して利益となるけども、道(タオ)は重ねるほど損をする。すべてを失っていく。それでも道(タオ)を重ねてどんどん失っていきなさい。やがて無為に到達する。無為に到達すれば、すべてがひとりでに動いていくから心配無用になる」
これは当時の中国の人々にはまったくもって不可解なものだった。やればやるほど損をする、どんどん失っていく、なんてありえないことだ。彼らはとにかく自分に財宝や地位や名誉を積み上げることが素晴らしいことだと信じていたからね。
だから道教を信仰していた数少ない信者たちは、インドから仏教が入ってきたとき、そこに道教と同じ匂いをすぐに感じ取った。どちらも煩悩を捨て去った先に開ける境地を伝えていたからだ。
タオ
道(タオ)についても書いておこう。「老子道徳経」の第25章にはこうある。
「混沌としたひとつのものがあって、それは天地よりも先にある。静かで目にも見えず、ただ「ひとりあるのみ」で、そのあり方を変えることもない。それは万物を生み出す母のようなものだ。私はそれをなんと呼べばいいのかわからない。仮に「道(タオ)」と呼んでおく」
つまり「道」とは無限者のことであり、たとえば「〇〇がない」というとき、その「ない」すらも否定した「ないのない」の境地、それは逆説的に「すべてある」へと到達することにある。
ではこの「道(タオ)」から何が学べるのか。老子はこのように伝える。
「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ずる。万物は陰を背負って陽を抱く」
もし道(タオ)を「それはひとつのものだ」とあなたが言うとき、そこには言葉が生まれているからすでに「二」となる。二であることを知っている自分がいるからそれはもはや「三」となっている。
そのように何かを知ればすぐさま万物は生まれ、そして万物は光と影の両面を持ち合わせる。つまり憎悪も損得も生死もすべて幻であり、その幻に惑わされて人間は苦しんだり喜んだりしているにすぎない。では憎悪も損得も生死もないその境地とはなんだろう? そう、それがのちに人々に解釈された桃源郷であり、不老不死の永遠なる世界なのだ。
だから老子は現世利益を求めるのではなく、その逆向けにアプローチせよと伝えているのだ、ゆえに仏教とかなり似通っていることがわかる。
不老不死の仙薬を求めて
さてそうした不老不死伝説に秦の始皇帝も熱を上げていた。彼は徐福という使者に様々な場所に向かわせて「仙薬」を探させていた。紀元前の歴史家である司馬遷が書いた「史記」にはこう残されている。
「徐福は始皇帝に東方の三神山に不老不死の仙薬があるとの命を受け、3000人の若い男女と多くの技術者を従えて東方へ船出して、辿り着いた先で彼は王となり、戻らなかった」
この徐福が向かった「東方」には日本各地が含まれている。徐福に関する伝承は青森県から鹿児島県まで日本列島のそこら中にあり、そのなかで徐福が最後に上陸したというのが、浦嶋神社のある丹後半島だった。
そこにある新井崎神社の近くで、徐福は不老不死の薬を発見したと伝えられ(ヨモギの葉とされる)、その旅を終えたといわれている。新井崎神社には徐福が祀られているとともに古文書にもそのことが記されている。
さて徐福にしろ始皇帝にしろ、彼らは2000年以上も前の人たちだ(紀元前3世紀)。なのでその頃の日本とはそもそも国として存在していたのかという疑問点で争われてきた。2世紀ごろに倭国大乱といいう日本国内での争いがあって、その後に邪馬台国の卑弥呼が倭国王となったわけだが、それも3世紀であり、つまり徐福の話はその500年も前となる。
そんな昔の記録があるのかといえば実はあり、丹後半島の天橋立にある籠神社に当時から存続していた「海部氏」の系図が発見され、昭和51年に国宝に指定された。なんとそれは2000年前からの系図であり、それによると海部氏の始祖は日本神話に登場する神のひとり天火明命(アメノホアカリノミコト)であると記述されている。
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