意識と無意識(前編)

あるたとえ話がある。男が「自分はチーズだ」と思い込む精神の病いにかかっていた。「だからいつもネズミに狙われている」とね。そこで精神科医は彼に治療を施した。

「もう大丈夫ですよ、あなたは自分がチーズではなく人間だと知っています。」彼はこれで安心だと退院していったわけだが、またしばらくして病院へ戻ってきた。

「どうしました?あなたはもう人間なんですよ?」医師が尋ねると男はこういった。

「私が人間になったのはわかっています。でもネズミたちがまだ私をチーズだと思っているのではないかと思うと不安で‥。」

 

何になろうとも狙われる

この滑稽な話は「自分」をどれだけ改善しても無意味であることを言っている。なぜなら彼の人生とは世界に生きる自分だけではなく、世界そのものであるからだ。世界が変わらなければ常に戦いは続く。つまり「ネズミのチーズ好き」がそこにある限り、彼はどんなに立派な人間になろうとも、やはり彼はチーズなのだ。

あなたも同じである。一体自分を何と思い、そして何に追われているのだろうか。その解決のために大きなクジラになったところで、次はサメに狙われているかもしれない。ゆえに「何かになること」で世界は解決しない。世界全体を一気に染め直す必要がある。

 

支配者は誰か

いま生きている現実世界を可能な限り最上点から見下ろすこと、そのトータルな視野を持つことが複雑なパズルをシンプルなものにする。ならば苦悩の発端はその状況にではなく、自分のなかで見過ごしている「何か」であるとわかるはずだ。

その何かとは「無意識」に流され生きていることにある。無意識は私たちにとって不可欠なものであると同時に、油断すれば、その「利便性」に支配される。

Google検索のように便利になった社会だと思わせながら、実は人間自体が「そのシステムそのもの」として機能させられているのと同じ様子となる。まさに「その接し方」を知らずにただ消費社会に踊らされている人々の構図だ。手段と目的が逆転している。

 

物語の鍵を取り戻す

そこで今回は無意識を解明し、どのようにすれば「見方」を自在に変えていくことができるのか、すなわち転倒した本末を「再び本末転倒させる」こと、人間関係や仕事、生活など、人生全般の「主権」を取り戻す方法について話していこう。

※心理学や仏教では「無意識」を細分化しているけども、今回はそうした概念は不要なので総称して「無意識」とする。

 

無意識の層

無意識とは簡単に言ってしまえば「記憶」のことだ。記憶といってもあなた個人の記憶ではない。人類全体の記憶のことだ。それもあなたが生まれる前からずっと蓄積されている膨大なデータ空間であるといえる。だから個別の層ではなく「全体の層」となる。

このようにイメージしてみるといい。大きな地球があってその地表に3本の木が生えている。この地球が「無意識」という巨大な層であり、木が「自己意識」という部分になる。つまり3本の木を順にA、B、Cと名付けたとき、それらが人々ということだ。

AもBもCも、同じ無意識層から養分を受け取るように地表に生えている。だからあなたと私は「記憶を共有しあっている」ということだ。

だがここでいう記憶というのは具体的な事柄の記憶ではなく、雰囲気に近いもの、日頃何かを感じる直前にフッと入り込む「印象」のようなものだ。「具体的な映像」は自己意識上で観念化されて表示される。それが各々の現実の光景となる。

 

運命の赤い糸

たとえば人混みのなかで、見ず知らずの人とまるでタイミングを合わせたように偶然目が合うことがある。このようなときはお互いに同じ「印象」が飛び込んでいる。よく「世界に応答するように生きればうまくいく」というのは、世界全体とのリンク(共時性)がそこに起きているからだ。

あなたの仕事が誰かに大いに受け入れられたときも、そのリンクのもとに仕事が行われていたからだ。だから他人に「認められたい」とする努力は決して実らない。認められるときは「自分」が消えてスルスルと何かが引き出されているときなのだ。

だがこうした「奇遇」に限らず、レジでお釣りのやりとりができることも同じ記憶域を共有しているから可能なのである。このような「意思の疎通」が、私たちが無意識レベルでつながっていることを明らかにする。

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