お金の”使いかた”について(中編)

さて前編で話したのは、相談をしてきている人たちにとってお金とはある種の”呪い”になっているということにある。その呪いを解くための方法を取らなければならないわけだ。

生まれた時から当たり前のように思っているこの世界(働くことや生活すること)はすでに規定として組み込まれたものであり、そこに気づかないと何をやっても「そのふりを演じている」というような、まるで手応えを感じられない虚しい人生を歩み続けることになる。

たとえば恋愛も料理も旅行もそうであるし、また将来は〇〇になりたいとかライフスタイルの実現だとかもそうで、何をするにしても「まずお金のやり取りを解決しなければならない」という呪縛が取り憑いている。

お金の問題をクリアしなければ満足に恋愛もできない。実際離婚や破局の第一の原因は経済的な問題だ。だが相手と心惹かれ合ったその瞬間には、2人の生活のランニングコストがいくらかかるかなど考えもしなかったはずだ。

ところが愛蜜な生活を営むことと並行して、支払い義務の重みが生ずるようになる。それはまるで相手の存在の重量のようにも感じられる。その重みにやがて初期の燃え上がっていたハートは完全に消沈する。

15.呪われた世界

私たちはいったい何をやっているのだろう?

子どもの頃、あなたはロックミュージシャンになりたかったかもしれない。だが現実がそれを認めなかった。現実とは何か。それはお金のことだと誰もが考える。ロックミュージシャンになるだけなら、別に売れなくともそれ自体が充足であるはずなのに、ロックとはまったく無関係であるはずの「理由」によって断念を余儀なくされる。

むしろロックな精神とはそういう体制的なものへの反発によって生まれるはずだが、結局は飼いならされた猛獣程度が限界となる。そのクレイジー”風”な雄叫びは地球全土どころか、町会さえにも響き渡らない。

こうして理想と現実の狭間で打ちのめされていくわけだが、やがて何においても始める前から常に計算をするようになる。そしてその「計算能力」によって人生の可能性は選別されていく。だから世間一般では「頭のいい人」が重宝され、それゆえに高学歴であることが絶対のステータスだと誰もが思い込んでいるが、だからといって彼らが何かを掴めるわけではない。

そればかりか、大体のことが「やる前からやり終えた気分になってしまう」ゆえ、一度も外に出たことのない冒険者で溢れかえる顛末にある。

だから幸せに”なる”にしろ不幸を感じるにしろ、すべてはお金と照らし合わせた判断にあり、その審査を通過してはじめて、ようやくあなたは愛しい相手を”愛すること“を許されるわけだ。変な感じだね。

しかし本当にお金が問題なのだろうか。

実際お金を使ったら幸せになれるのかといえばそうじゃないだろう。それは何度も経験してきているはずだ。打球を放っている”雰囲気”だけ、頭のなかでは遠くに打ち返すボールをみているが、バットを握っている手には常にジャストミートの感触がない。ずっと空振りを続けている感覚にある。

だがそれ以外に手段がわからないから今日も何かを探し求めているという堂々めぐりにある。つまり呪われた世界に閉じ込められている。

16.すでに黒い地面に立っている

さらにこの「呪い」は他者へと向けられる。

たとえば最近なら某企業の社長が1億円お年玉企画と称した活動をしたり、また若手の投資家や実業家が羽振りの良い報告をしたりすることについて、羨ましさと同時に憎しみのような印象を持ったりする。これは羨望と憎悪は「同じもの」であることを意味している。

海外でも同じような傾向はあるにはあるが、それは村社会的なイデオロギーが抜けきらない日本人の比ではない。

もちろん苦言を溢したりはあるだろうけども、海外のスポーツ選手たちのようにオフタイムは高級車と豪邸とパーティ三昧であることを己の成功の象徴とし(もちろん別の意味での問題点はたくさんある)、それを眺める一般人たちも揚げ足を取ろうとするのではなく、己もいつかそうなろうという純粋な動機を抱いている様子にある。

日本のスポーツ選手がそのような素ぶりを見せたら国内では反感を買うだけに終わるだろう。だがどうして疎ましく感じるのだろうか。その嫌悪感はいったいなんなのか。

決して“そのように考えよう”としたわけではなく、最初からその前提として考えている。それが己に取り憑いている呪いというわけだ。

17.暗雲が去った世界

さてここに要点があって、つまり「呪い」にかかっている限りはお金持ちになっても幸せの次元は開かない。言いかえれば呪いから脱しているならば、お金持ちに“なっても”幸せであるということだ。

無論、それは呪われていないからこそハッピーなのであり、だからお金のあるなしは無関係となる。

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