楽園へのチケット

いま目の前に世界があるだろう

視界に広がる光景や
周囲を取り囲む音
指先の感触なんかがそうだ

それらはあなたから見える世界

だが自転車に乗っているとき
あなたはどんな姿を浮かべているだろう

いま自転車に乗っている自分を想像してごらん

もしかするとほら、向こうで同じように
自転車に乗っているひとがいるけども
それと同じように浮かべるのではないかな

実際はそうじゃないだろう

向こうのひとのように
すっぽりと全身がみえてなどいないはずだ

視界には鼻の頭と
その向こうに広がる一人称の世界
下を見下ろせば
ハンドルを握る手と
ペダルを漕ぐ足がみえる

なのに頭のなかのイメージでは
自転車に乗っている他者のように
自分も全身すっぽりとした光景がある

街を歩いているときや
買い物をしているとき
誰かと話しているとき

あなたは「自分の姿」を意識している
全身すっぽりのあなたがいる

だけどもそんなものこれまで
現実で一度も見たことがないはずだ
ガラスに反射した姿はどうだって?

でもそのガラスをみているときも
やっぱり鼻の頭が手前にあるね

鏡も写真もビデオも同じ
それらはいつも
「あなたの向こう」にあるわけで
つまりそれは
「それを見ているあなたの姿」ではない

つまり何かをしているときに
イメージしている自分の姿と
実際に体験している光景は
まるで違うということだ

世界というものを思い浮かべるとき
街の中に自分や他人がいるような
光景が出てくるかもしれないが
実際にあるのは
いまそこでこれを見ているような
主観的なスペースのみ

つまりいつも自分といるはずなのに
その自分の姿は決して現れない

それが「本当の世界」なのだ

 

1.

さてこの主観的な視点
あなたが世界を体験する「窓口」となる

本当はこの話はもっと深いことに
なっていくのだけども
ここでは一旦
「世界は主観的なものである」としておこう

この段階に立たないかぎり
「全身すっぽりの自分像」が実在するなんて
ありもしないイメージに惑わされて
人生がメチャクチャになってしまうからだ

つまり「他者の目」に
振り回され続けることになる
その妄想との戦いは
あなたが「本当の世界」に
引き戻らない限り永遠に続いてしまう

ゆえに主観性の獲得は第一歩となる

余談になるけども
スピリチュアルな気づきには
いわば「段階」があるといえる

自己探求で最初に到達するのは
この主観性の獲得すなわち
自己を常に想起させておくというものだ

「私は在る」ってやつの初段階にあたる

この主観的な視点を獲得したら
確かに世間から解放されて
自由になんでもやれるようになる
で誰もが「よし自分は悟った」なんて言い出す

だがすぐにわかるが
やはり現実は太刀打ちできないような
重く苦しい光景のままだ

目の前の壁は相変わらず高くそびえ
単に他者からの拘束から抜け出ただけで
結局は厚顔無恥な自分が
開発されただけのオチにしかならない

だがそれでも第一歩なのだ

そこに踏み入れなければ
「次」に進むことができないからだ

 

2.

というわけで主観性という
本来のポジションへ戻ること、

つまり主体的なあり方を取り戻すことで
世界という窓口は
「いつも自分の目の前に開いていた」
ということに気づくわけだ

だがそれと同時に
ある違和感が起こるようになる

さっきの自転車の話のように
これまでずっと他人の姿と同じものを
自分もそうだと思い続けていた

つまり「世界のなか」に
他人と同じように自分も収まっていると
思っていた

だが主観性を獲得した世界というのは
なんだか自分勝手な思い込みだけで
支配しているように感じられてくる

いわゆる独我論的な世界だ

確かに世界は
「そうだと思えばそう」なのだろうけども
なんだろうか
どこか寂しいというか
虚しいというか
そんな気配が漂っている

まるで自分の歩みを止めると
その得体の知れない不安感に
追いつかれてしまうような嫌な感じがある

そうして気づいてくることがある

たとえばこの窓口を通じて見える光景や
聴こえてくる音
そして触れるものは
本当に窓の向こう側にあるのだろうか?

たとえばいまここにいる
愛する妻の笑顔や
動物たちの健気な姿は
本当に実在するのだろうか

夏の綺麗な夕空は
花々の香りは
飛び回る小鳥たちのさえずりは
本当に実在しているのだろうか

しばらく主観的な生き方を続けていると
そのような疑問とともに
儚い気持ちに囚われるようになる

目の前のこの小さな窓を
いつもドンドンと叩き続けているような
そんな虚しさに浸ることが多くなるわけだ

すべてが徐々に消えていって
やがて自分も死ぬのだ、
なんだか切ないな
結局は悲しい思いをするために
生まれてきたのかな、とね

これは世間に囚われて生きていた頃は
浮かばなかった感情だ
よく定年退職した人たちがこれに陥る
ある程度生活が安定し
さほど問題もない暮らしに入るとき
いわゆる「人生の意味」について
向き合うようになる

つまり自然に生きていても
その段階にはたどり着くということだ

ただその虚しさをどう扱っていいかわからず
定年後は自暴自棄に溺れたり
街で悪態をついたり
そういう態度に出てしまう
また早々にボケてしまうひとも多い

だがこの「窓を叩き続けている」ということ
これが次の段階への重要なステップとなるのだよ

 

3.

この「主観性の窓」を叩き続けていることで
あることに気づきだす

向こうにすべては実在しているのかと
審議するよりも先に
「ある判明する事実」がある

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