心の強さを得る

死についてどんなイメージを持っているだろうか。それは得体の知れない恐ろしいもので、できれば想像したくもない、という感じかね。

誰もが死を恐れている。たとえば他者に自分がどう思われているだろうかとか、そういうアイデンティティの形成の根底には死への恐れがある。人間は何層にも重なった意味の世界を生きているから、まさがすべてに死が関係しているなんて思えないけども、そうじゃない。

あなたには死か生しかないのだ。

お金儲けも恋愛も人間関係も豊かな暮らしも、それらは表面に塗られた色彩に過ぎず、それらを立てるプライドや自信も、好奇心も信心する心も、すべてオマケのようなものだ。私たちには死か生しかない。

さらにいえば、死しかない。私たちとは死なのだ。生は死があるから存在するのであり、いわば生とは死から伸びた影にすぎない。だが私たちは死を恐れて前を見ず、影を生きようとしている。

1.

自殺者の遺書や生前に書き残していたノートには「生きたいけど生きられない」という類の文面で埋まっている。彼らは自ら命を絶ったから死を受け入れていたのか、といえばそうじゃない。まったく逆なのだ。生ばかりを見ようとして「死」を引っ込ませるから、生が成立しなくなったのだ。つまり「生を否定し続けている自分」に気づけず、やがて己の生の否定そのものに絶望してしまう。

生とは死のことであり、精神のなかで己の「墓標」がしっかり建っているからこそ、光を浴びたその背後には、生という影がくっきり姿を現すのである。

あなたが最高の人生を歩みたいならば、どんなときでもモチベーションに溢れていたいならば、死を引っ込ませるのではなく、生と対等のレベルまで死をそこに在らしめておかなくてはならない。死を認めるからこそ、生は肯定されるのだ。

2.

人間の歴史は邪魔なものを排除し続けてきた歴史であるといえる。何か新しい価値観が生まれると、その価値観をきわだてるために他を曇らせる。そこに白をはっきりさせるには周囲を黒くしなければならないからだ。

言い換えれば、対極となるものをつくるから人間はそこに意味を見出すことが可能となる。自他分離の二元世界だ。つまりもとはすべてが融合したフラットな平面(ワンネス)であり、すべての意味が消失したそれこそが「死」と呼ぶところのものなのである。

以前も話したが18世紀に人間の理性が尊重されるようになると、非理性的な人々はどんどん隔離されていった。

自分が正気であり人格者であるということを誇示するために、精神弱者や異端宗教信者、社会的に立場の弱いものがどんどん疎外されていった。

今日の私たちがイメージする大人と子どもの明確な境界線が引かれたのもこの頃からだ。子供らしさとか無邪気さとか、一見綺麗な言葉(観念)としてくくられるのだけども、それはつまり大人が自らの立派さを認めさせるがために与えた「惨めさのレッテル」でしかない。

父親は家で威厳ある存在でなければならない、そんな風潮が当然の背景となったゆえに子どもはそんな親父パフォーマンスのために犠牲にされてしまった。結果として愛情が不足し屈折した子どもたちの将来が残されるようになる。だが当の父親たちは自分が踊らされていることに気づいていない。「父の威厳」「子どもらしさ」そんな言葉が当たり前のことであると思いこんでしまっている。

3.

つまり私たち「人間」というのは、時代そのものなのだ。個人というものはつい最近できた観念であり、人生や生命という「考え方」も300年前まで存在していなかった。もちろん言葉としてはあったけども、いまのような意味や価値は含んでいなかった。

たとえば私たちは「現代の観点」で1000年前の人々の記録を見てしまう。それはすでにバイアスがかかって見えているものだ。ゆえにどれだけはっきり見えていても、それはまったく正しく見えていない。

死は昔も今もあるけども、時代ごとにまったく異質のものとして存在している。「個人」という観念が人々に広まるまで、死は生と対等に暮らしていた。死は市民権を得ていた。街のどこを歩いても死が溢れていた。

つまり理性主義になって非理性的な者たちが排除されたように、父の威厳が子どもを隔離したように、それらと同様に、人々が自らに「個人」を獲得するに従って、死も排除されていった。社会が発展するとともに死はどんどん追いやられていく。街のなかにあった墓地は郊外へ遠ざけられ、やがて都市のなかで死は完全に姿を消してしまう。

死を象徴するものがないから私たちは物理的に触れることもできないし、誰もが個人的な人生を保守したいから、死はどんどん災厄として封じられ、精神的にも死に意識を向けるきっかけを失っていく。

だから死をどのように扱っていいのかわからない。現代の私たちにとって死は異常そのものであり、もはや死とはあってはならないタブーでしかない。死は行き場を失い、安らげる寝床すらも与えられず、ただ人々の間をふわふわと浮遊しているだけの存在となった。ゆえに私たちはその得体の知れない死に捕まれないように触れないように、いつも警戒し、死との溝は深まっていくばかりとなる。

4.

だが私たちとは死すべき存在である。お金でも恋愛でもなく、死だけが確かなものなのだ。なぜ現代の人々がソンビのようにさまよい歩いているのかといえば「生を死にきれていない」からだ。死とともにあるからこそ、生は強烈なパワーを放ち出すのにもかかわらず、それを忌み嫌い除外している。

まして人々は死から逃れる方法ばかりを求める始末だ。退屈を紛らわす娯楽、予定、将来への貯蓄、それら自体は豊かさの現われであるけども、それしか見ないからいつもそわそわしている。死が隣にいるからこそ、それらは「楽しみ」として豊かに輝くのである。

死は未来や過去を参照しない。常に「いま」と「ここ」に意識を向けさせる。死はあなたに本当の生を開いてくれる。もはや損得だとか意味や理由がどうだとか、そんなものは人生の問題ではなくなる。

ただ行為することだけ。ただ生きることだけがそこにある。そしてそれだけあれば十分であることに気づくようになる。

5.

人生において必要なものは、実際の強さではない。

世渡りの技術でもないし、他人を楽しませる芸を持つことでもない。将来のためにスキルアップすることや高い地位に就くことでもない。お金をたくさん持つことでも羨ましがられる何かになることでもない。

それらは「結果としてそうなるもの」であり、先に求めてしまうとそれらは真価を発揮しない。見かけはスキル満載でレベルが高いはずなのに、いつも虚しくて不安ばかりの人生になる。

じゃあ何が必要なのか。

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