あなたを導いているもの

カップルがショッピングモールに
買い物へとやってきた

建物には駐車スペースがいくつかある

売り場に近い一階平面にある
屋外駐車場に停めようか
それともスロープを登って
三階の屋内駐車場に停めようか

運転中の彼氏はなんとなく
三階に停めようかと感じていた
特に理由があるわけではなく
ただなんとなくそう感じていた

だが彼女はひと思案し
「売り場に近いし歩く距離が少なくていい」
という理由を述べて
一階の屋外駐車場に停めることになった

さて買い物を終えて荷物を抱えた二人が
車へ向かおうと外へ出てみれば
なんとすごい大雨だった

これはとても歩けそうもない
髪も服も荷物もびしょ濡れになる

彼氏は少しすれば雨がやむだろうと思った
調べたわけでもないが
ただ、なんとなくそう感じていた

とりあえず建物内のフードコートで
時間を潰そうと提案した

彼女もしぶしぶながら
簡単なドリンクを購入して
時間を潰すことにした

「あなたが最初言った通りに
二階に停めておけば良かった」

「まあ仕方ないさ」

10分、20分と過ぎていくうち
彼女はそわそわしながら
たびたび雨の様子を見に向かった

そして何度目かの視察で
息を切らせて急ぎ足で戻って来た

「いま小雨になってるからチャンスよ」

「でももう少ししたらちゃんと
やむような気がする」と彼氏

「そんなのあてにならないわ」

というわけで二人は荷物を抱えて
小雨のなかを走り出した

だがその瞬間

さっきと同じ
とんでもない豪雨が再開した

結局二人は全身びしょ濡れになって
車に飛び込んだ

次に買い物に向かう予定だった店も
こんな格好じゃ入れない
風邪もひいてしまうかもしれない

彼氏も彼女も
交わす言葉もなく帰路に着いた

案の定、その晩に彼氏は高熱を出して
結局会社を休むことになった

 

1.

さて、直感力というものがある

彼氏の直感に従って行動していたら
雨で足止めを食らうことも
フードコートの余計な出費もなく
もちろんびしょ濡れにもならずに
予定通りに次の店へと向かっていた

風邪もひかなかっただろうということだ

だが注意してほしいのは
今回の話の要点は
「もし〜だったなら」という
パラレルワールドの解説にあるのではなく

純粋な直感で生きているとき
それは「常に危険を回避している」ということ
そしてその場合
当然危険は回避されてしまっているので
己が危険を回避していたことを
知ることはできないということにある

あなたは今日まで存在してきた
いろいろあっただろうけども
とりあえずはいまそこでこれを読んでいる

もちろん思い悩んだ末に
決断をしたことも沢山あっただろう
だがすべてが思考的ではなかったはずだ
むしろ大半の選択には
「ただなんとなく」という直感が働き
それに従ってきた

つまり今日まで存在してこれたのは
実はその「特に考慮のない直感」によって
自分の知らないうちに
「未然に危険を回避していた」ということだ

たとえば今回は彼女が悪者みたいに
なってしまったけども
彼女は常に合理的な選択を
選ぼうとしていたことがわかる

ゆえに彼氏の根拠のない選択に
いつも落ち着かない
彼女は明確な理由と
論理的な筋道に安心をみていた
思考を至上の基準とするタイプだった

つまり自分の頭脳を信じるあまり
超自然的な力を信じようとしない

しかし思考とはそれまで備えた
知識の集合がその限界値となる

たとえば人類は宇宙へと旅たち
これだけ科学が発展したにも関わらず
いまだに明日の天気すら
完璧に言い当てることができない

それは予測というものが
常に過去のデータから
シミュレートするものでしかないからだ

だが小動物たちは地震の直前に姿を消した

彼らの即時的な的中率は
最新のスーパーコンピューターの
緻密な計算さえ簡単に超えてしまう

もはやそれは確率とかそういう次元ではなく
宇宙の呼吸とひとつになっているのである

 

2.

「直感的な選択」というのは
神の啓示のことであり
それは生命としての「流れ」に
導かれるものだということだ

もちろん買い物が濡れようが
風邪をひこうが現代人にとっては
さほど大した問題ではない

人間の文明はそうしたトラブルに
対応できるよう
商品は密封することを覚え
そして医薬品などが開発されてきた

つまり文明の発展によって
ある程度のミス(自然の流れへの反抗)は
帳消しにすることができる

だがその意味でいうなら文明の発展とは
直感を信じないゆえに起きた損失への
応急処置の発展ともいえる

実際人生を振り返ってみてどうだろうか

あれこれ深く考えて選択したより
スッと動いたときのほうが
うまくいったという経験はないかな

また後になってから
「最初にふと思ったものを
選んでおけばよかった」といった
後悔の経験もあるかもしれない

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