母と手をつなぐ

確かにお金持ちはいるし
モデル雑誌から飛び出したような
人たちも歩いてる

だがそんな一部の人たちだけを見ていると
自分を客観視できなくなる
つまり己を見失うということだ

ここでいう客観視とは
他者の目で自分を評価することではなく
「自分」を自己意識の目で観るということにある

仕事や食事をしていても
誰と過ごしていても一歩離れた視点から
「自分」を観察しているということである

他者→自分←自己意識

しかし意識の目から見放された自分は
まさに迷子になった幼児のようで
常に不安に取り囲まれてしまう

他者→自分←他者

だからいつも何かが足りない
その足りない何かを他者や物事に求める

つまり足りない何かとは安心感である

母なる受容から切り離されているゆえに
「自分は十分これでいい」
「素直にやってけばいい」という
自己に対する基準や肯定感を
持つことができない

だから心の拠り所を求め続ける
心の隙間を「何かで埋めること」ばかり考えている

だがそれは外部に自己の基準を
依存するということであり
結果としてますます他人を羨むばかりとなる

心はどんどん惨めになっていく

 

1.

インターネットは解放され
誰もが自分のことを公開できる時代になった

ツイッターやフェイスブックといった
いわゆるSNSで老若男女問わず
まったくの他人のことを
窺い知ることができる

人々はとても満たされて
充実しているようにみえる
みんな楽しそうで
それぞれ予定が満載なようだ

テレビもセレブなタレントや
実業家の豪華な暮らしが放映され
映画やドラマは
厳選されたルックスの俳優で溢れている

すごい世界だね

投資で何億円儲けたとか
10代から海外留学していたとか
パリ風のオシャレな暮らしの報告だとか

メディアを通じて知るこの世は
「平凡であること」は異常なことであり
もはやひとつの犯罪ですらあるともいえる

そうした風潮に感化されて
本来「演じられるだけ」だったはずの
仮想空間は現実空間と逆転しはじめた

いまじゃ街がSNSそのものだ

髪型も服装も流行から1mmも漏れずに

澄ました顔で誰もが溶け込んでいる

 

2.

さてそれは結構なことだが
おかげで「自分」はいつも
場違いな感覚で街を歩くことになる

まるで太古の時代から紛れ込んだ
古代人みたいだ

博士はこのボタンを押せば
「正しい時代に戻れる」と言っていたのに
全然話が違うじゃないか

どこなんだここは

街を歩けばいつも自分は浮いてる
レジで並んでいても
電車に乗っていても
ほら、なんだか自分だけ扱いが違う

店員の態度が
すれ違う人々の視線が
心をズブズブと串刺してくる

どうして自分が話しはじめると
みんな黙ってしまうのか
言葉が通じていないのかと
不思議に思うことさえある

もちろんそれなりに
エチケットや流行には気をつけたりはする

どうにもならないものは仕方ないとして
出来る限りの事はやってるつもりだ

だがどうして
みんなのように笑えないのだろう?

 

3.

もちろん実際は幸せでなくても
「そのように演じなきゃならない」
という風潮があることは知ってる

自分はそこまでバカじゃない
そんなことはわかっている

SNSに次々アップされるハッピーな画像
だが彼らの笑顔は嘘っぱちだ
料理の写真だって
ちょっと加工すれば所帯臭さも消える

優美なボサノバの流れるカフェの椅子に
腰掛けるあそこの綺麗な人も
家はゴミ箱のようだったりするわけだ

そんな「事実」を自分は知ってる
誰もが「自分を保つため」に
努力しているだろうことはわかる

だからみんな偽りを演じてるはずなんだ
だから「安心していいはず」なんだ
その21世紀風のメイクを落としたら
中身は同じ古代人なんだから

しかしここで重大な疑問にぶつかる

もしかして自分だけが
その「事実」に気づいているだけで
他のみんなはその本当のことを
忘れてしまっているのではないかということだ

つまり誰もが流行から漏れまいと
価値観や性格などを努力して
保っている自分こそが「本当の自分」だと
思い込んでいるのではないか

それは大変なことだ

なぜなら幸せは「演じるもの」であり
その演技をやめることが
不幸であることになるからだ

なるほどそれなら確かに
平凡や自然であることは異常であり
もっとも冒してはならない誤ちとなる

しかしこれが現状であるとするなら
そんな眠りの人々のなかに
自分が巻き込まれていることは
大きな問題となる

 

4.

みんな古代のあの懐かしい風を
覚えているのだろうか

一緒に駆け上がったあの丘や
城壁に腰掛けて見上げた美しい星空

純粋で素直だったあの頃を
ちゃんと覚えているのだろうか

この新時代の「演技」を真実だと思い込んで
その勢いのまま他人を
せせら笑っているんじゃないのだろうか

ちょっとみんな目を覚ましてくれよ
じゃないとやってられないじゃないか

店員も通行人たちも
こちらを時代遅れの人間だとみて
それで拒絶しているんじゃないのか

そんな輪の中で人々は同調し合う相手とだけ
笑いあって肩を叩き合ってるけども
それは一体「どの自分」がそうしているのだろう?

どうやったら目が覚める?

パチンを頰を叩いてやればいいのだろうか
いいやそんなことやったら通報される
同僚は殴りかかってくるだろうし
恋人は怖がって逃げていく

ではみんなに「君たちは異常なんだ」と
伝えれればいいのだろうか?
いいやそんなことやったら
自分が異常者扱いにされる

街の人々だけじゃない
身近な家族とも
いつも心がすれ違っている

興奮して声を荒立てたところで
自分の話を理解しようなんてせず
ただなだめられるだけ

結局いつも自分は困った人の扱いだ

それにしても
「このボタンで正しい時代に戻れる」と
博士は自信満々に言っていたが
それはどういう意味だったのだろう

というより「正しい時代」って
一体いつのことなのだろうか

あの懐かしい古代の頃?
でも古代っていつのことだ?

どうにもならないこの世界で
自分はみんなと同じように
白々しい演技を続けて
嘘の笑いをして

みんなが良いというのものを良いと言い
みんなが嫌うものを一緒になって嫌う

そうしていつの間にか
このもどかしさを忘れているような
そんな人生しかないのだろうか

全文をお読みいただくにはご入会後にログインしてください。数千本の記事を自由にご覧いただけます。→ . またご入会や入会の詳しい内容はこちらから確認できます→ ご入会はこちらから


Notes , , , , , , , , , , , , , , , ,

 

コメント投稿の注意事項

 以下をかならずお読みください。
・公序良俗に反する内容、品性に欠いた文章、その他、閲覧者に不快感を与えると判断された投稿は掲載不可の対象となりますのでご留意ください。コメント欄は常時多くの方が閲覧しておりますことをご理解の上投稿してください。
・会員記事のコメントはログインしないと表示されません。
・会員の方はユーザー名が入ってしまうので別名をこちらで申請してください。必須。
・追記などを投稿する時は自分の最初のコメントに返信してください。
・記事に無関係な投稿は禁止です。良識範囲でお願いします。
・ハンドル名が変わっても固有idに基づき本人の同一性が保たれます。
・対応の状況によりすべてのコメントに作者が返信できるものではありません。
規定の文字数に満たない短文、英文のみは表示できません。また半角記号(スペースやクエスチョンマークなどの感嘆符)は文字化けなどのエラーになりますので使用しないでください。使われる場合は全角文字でご使用ください。
・他の利用者を勧誘や扇動する行為、誤解を与える表現、卑猥な表現、犯罪行為を正当化するコメントなどは禁止です。また全体の文脈の意図を汲み取らず言葉の端や表現に用いられた構成部分だけを抜き出してその箇所のみへの質疑や意見する投稿も当事者にも他の閲覧者にとっても無益となりますので禁止です。それら意図がなくても事務局でそのように判断された場合はその箇所を修正削除させて頂いたり、または掲載不可となりますので予めご了承ください。
・同一者の投稿は1日1〜2件程度(例外を除く)に制限させていただいております。連投分は削除させていただきます(コメント欄が同一者で埋まり独占的な利用になってしまうのを防止するためであり日を跨いだ投稿も調整させていただく場合があります)
・個人情報保護法により個人情報や会員情報に関する箇所が含まれている場合は該当箇所を削除させていただきます。
・投稿内容に敏感な方も多くいらっしゃいますので、暴力的な表現など他の利用者様へ影響を与えそうな文面はお控えください。
・意図的であるなしに関わらず、文章が途中で途絶えているものは掲載不可となります。もし誤って送信された場合は早めに追記として再投稿してください。
・マナーを守らない場合は規約違反となります。また他のユーザーや当事業部、作者への中傷や毀損と思われる言動は会員規約に則り強制退会および法的措置となりますのでご注意ください。
・投稿者による有料記事の大部分に渡る引用は禁止しております。
・スパム広告対策にセキュリティを設定しております。投稿後に承認待ちと表示される場合がありますがしばらくすると表示されます。また短時間の連続投稿はスパム投稿とみなされるため承認されません。時間をおいてください。
・コメントシステムはWordpressを利用しておりますので他でWordpressアカウント(Gravatar)を設定されている場合、アイコン画像がコメント欄に表示されます。会員登録されたメールアドレスで紐づきますので、もしアイコンを表示させたくない場合はお手数ですがこちらより涅槃の書の登録メールアドレスを変更してください。

  1. keito より:
    コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
    • 涅槃の書-自分 より:
      コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
  2. imacocojin より:
    コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
    • 涅槃の書-自分 より:
      コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
  3. yuka より:
    コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
    • 涅槃の書-自分 より:
      コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
  4. yuka より:
    コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。
    • 涅槃の書-自分 より:
      コメント交流をご覧いただくにはログインが必要です。

コメント・質疑応答

  関連記事

-->