宇宙の秘密

ある西洋人の学者が未開民族の地を訪れた

そこで暮らす彼らは
想像を絶するほど貧しく
そしてまったく無知だった

だがそれがこの世のすべてだと
信じている彼らの健気さを知った

それゆえに
ある種の愛らしさを感じていた

だがそこで学者は気づいた
西洋の自分たちも
彼らと同じではないのか

完全であると思い込んでいるだけで
もし別の世界があるならば
そこの彼らは我々を無知な者たちだと
捉えるのではないか

ならば未開の人たちに感じた
愛らしさとは
ただの傲慢でしかない

むしろ何の違いも「ない」のだ

どうして未開の人たちを
貧しいと思うのだろう?

確かに西洋の基準からすれば
車もテレビもない
スーパーマーケットもない

だがどうしてそれらが
“なければならない”のか

己はある価値観に知らずに支配されおり
それによって世界を
“捉えさせられている”だけではないのか

こうして学者は
自分が未開民族をみているように
己自身を捉え直した

そして人間は「常に幻想に包まれて」おり
そこから脱するのは
とても難しいのだと気がついた

 

1.

この「幻想」を
イデオロギーという言葉に
置き換えてみよう

イデオロギーとは人間の行動を
左右する根本的な物の考え方の体系
観念形態とされる

取り扱う分野によって
その定義が変わる概念であるのだけども
だいたいは
「本来の現実を歪めてしまう原因のこと」
として用いられることが多い

だからその論理でいけば
歪曲の原因を突き止めれば
「すべては解決する」というわけだ

「本来の現実」とやらに復帰できる

たとえば都合のいいように
本当の現実を隠して
幻想を吹き込むマスコミや政治家など
支配者たちのせいだとか

安心や富を”求めなければならない”と
思い込んでいるからいつまでたっても
生活が落ち着かないとかね

だから歪曲の原因を取り払えば
作られた幻想は消失するはずであり
つまりイデオロギーとは
「頭の中の誤った観念にすぎない」
とされてきた

ところがそんなふうに支配を超えた向こうに
幻想が消失するという考え方自体
すでにイデオロギーのなかにあるのだ

ここにイデオロギーという罠がある

つまり自分の考えに従って
自分で行為しているという”自明性”は
そのイデオロギーの中にいるからこそ
現れているのである

 

2.

となれば自分という個人が
「主体である」と信じていること自体が
すでに見誤っていることになる

己は決して自由な個人などではない

その不自由を見破ったと言ったところで
それもまたシナリオ通りなのだ

そもそも自分はどうして
ものを考えるのだろう?
それは必ず外部からの連続にある

会話なんかはわかりやすいね

会話というのは基本的に
問いと答えのピンポンゲーム

別に相手がクエスチョンを示さなくても
こちらが何かを答えるときは
相手の発言を問いかけという土台にしている

そうして思考は”自走”し続ける

確かに次の言葉は
どれにしようかと選択するが
だがそれは選択せざるを得ないのであって
つまり選択させられているのだ

しかも”限られた選択肢の中”からね

ひとりでいるときさえも
何らかの連鎖として考え事が発動する

何かが視界に入ったときや
何かに触れたときなど
五感を通じた体の感覚がきっかけで
記憶が呼び覚まされる

そしてその記憶から思考がめぐりはじめる

このように思考は
己の意図とは無関係に
ひたすら走り続けている

しかしそのランナーが
どういうコースを走るのかといえば
常にイデオロギーの枠内であり
決してその外に飛び出すことができない

話してきたように思考は
自分の”外側”が常に原因となっているからだ

あなたはどうして
自分の外に広がる街を消し去ったり
移動させたりすることができるだろう?

それは不可能だろう

しかもその”動かせない街”によって
自分の思考は走らされている
つまりどこまで走り続けても
イデオロギーの内部であるということだ

言いかえれば
イデオロギーは常に
“自分の外側”を取り囲んでいるうえに
“イデオロギーの外側”は存在しないという
出口のない罠にはまっていることになる

じゃあ何を考えるにしても
イデオロギーに支配されているなら
いったい自分は何を知っているというのだろう

いったいどうして
自由に生きていると言えるのだろうか

つまり未開民族を
見たときの印象そのものが
己自身を映し出しているのだ

ではどうしてこの出口のない迷路から
抜け出すことができるのだろう?
どうすれば現実を「変えること」が
できるのだろうか?

 

3.

ここである疑問がよぎるだろう

現実を抜け出させてくれるはずの
宗教やスピリチュアルの存在自体も
そもそもイデオロギーじゃないのだろうか

もちろんその通り

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