魂の「移動」

地球そっくりの惑星があるとして
そこにはまだ人類のような存在は
現れていないとしよう

森林や湖があり
雨は河川を通じて海へと流れ込む

森や草原は鳥や動物たちの楽園であり
海はもちろん魚たちが王国を築いている

たしかに食ったり食われたりの
自然の摂理が働いているが
だがそれがなんだというのだろう?

ここには大きなひとつの生命だけがあり

「私はあなたに食べられて
そして私はあなたから生まれてくる」

つまりあなたは私であり私はあなたである

そんな永遠性に満ちた地表だけども
太陽の当たり具合とか
隆起でできた山の陰とかで
いまひとつ植物が実らない場所がある

北極に近い島なんかがそうだね
いわゆる不毛の大地

植物が実らないから
他の生物も繁栄しない

たしかに長い年月をかけて
独自の生態系が生まれるけども
やはり温暖な気候の大陸には
その”豊かさ”には及ばないわけだ

 

インカーネーション

さて、姿を持たない「霊魂」が
自らが憑依する「体」を求めてやってきた

もちろん豊かな大地に取り憑きたい

そんな場所と一体化すれば
いつもエネルギーに満ちていられるし
精神も潤してくれるからだ

そんなわけで「霊魂」は
とても豊穣しているエリアに降り立ち
そこに憑依した

草木は優しい風に揺れ
温かい雨や陽の光を浴びて
綺麗な花を咲かせているが──

霊魂にみえている世界はこのようにある

都会でビルが建ち並び
流行の服を着た人々が往来する光景のなかで
己は人生を快活にエンジョイしている

生活も将来設計も順調そのもので
職場の仲間たちと和気藹々と過ごしてる

まさに幸福そのもの

朝の大気のなかを歩くこと
陽光や風に包まれること

好きな人と一緒に過ごすこと
子どもたちの笑顔をみること

そんな喜びの日々に満ちているわけだ

ところがだんだん
「この幸せを失いたくない」という
焦った気持ちが出てくるようになる

以前までは他の誰かが
幸せになっている姿を一緒に喜べた

また何かを失ったとしても
大して気にしていなかった

人生は幸福な祝祭のなかにあり
すべては巡り巡るもの
そのような感覚にあったからだ

だがいまや他人が信用できない
物事をそのままにしておくことができない
将来が不安でたまらない

やがて
不安を取り払うことが「私の幸せ」なんだと
錯覚しはじめるようになる

心を満たそうとするばかりの日々

あれがほしい
はやく仕事から解放されたい
あの人の言葉に傷ついた
この映画に感動した

そうして「霊魂」は
自らの内側にみえている世界にばかり
囚われているが

当初降り立っていた豊穣なエリアから
遠く離れていることに気づいていないんだ

 

“すべてが幻想”ゆえに真実となる

いつの間にか
不毛な大地にへばりついていた

だから魂は輝きを失い
心はいつも枯渇していた

何を手にしても喜びは一瞬の幻であり
誰と関わっても
自分を攻撃しているように思える

そんなストレスを抱えながら
体に異常が出てくる
出来事も不穏なことばかりが起きてくる

しかしその「不健全さ」とは
みえてる世界の外側にその要因があることに
「意味の世界」に閉じ込められた霊魂は
気づくことができない

これが思考が陥る罠であり
たとえば検知器の故障を
検知器そのものが検知できないのと同じ

不幸な世界が
つまり「幸せは獲得するものだ」という世界が
もう当たり前のことになっている

不毛な大地では
凍てつく風が吹き荒れて
陽の光もあまり届かない

だから霊魂が再び豊穣な場所へ降り立つには
いま己が
実在しない世界に囚われていることを理解し
一切の因縁や執着を取り払わなければならない

しかし繰り返すように
霊魂にとっては「幻想しかない」ゆえに
すべてが真実として映っている

肉体の不健全さも
がんじがらめの毎日も
不穏な出来事もすべてがそう

つまり「この真実」を
まったく異なる次元から
書き換えなければならないわけだね

 

言葉の”意味”の世界

ところで人間にとっての宇宙とは
「言葉の宇宙」なのであって

つまり私たちは言葉の「意味」の世界に
常に閉じ込められている

言葉の意味の世界

たとえば昨今問題になっている
SNSの誹謗中傷もそうであるし

あなたも日頃は
「相手が何を言ったか」について
心を振り回されているだろう

だが言葉の「意味」の世界とは
本当にここにある自然そのものではなく
フィクションの世界なんだ

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