言葉なき情景

朝の5時になる少し前、いつもそのぐらいの時間に自然に目を覚ましている。季節は夏のピークに向かっていて、窓から見える庭はもう十分に明るい。薄い青色の優しい空、黄金色の陽の光が低い角度でテラスのウッドデッキを照らしている。

とても静かで、ときおり上空から聴こえてくる鳥のさえずりと、噴水の心地よい音だけが流れている。

澄んだ朝の空気を吸って、庭で猫と一緒に軽く瞑想をして、だいたいは朝食のまえに書斎へおりていく。何百年か前に書かれたたくさんの本が壁の一面を覆っているのだけども、そこから何冊かを取り出して、これまた何年もかけて読んでいる。

時代の進化とともに、古い学問に教科書的な価値は失われるが、そんなことはどうでもよいのだ。昔もいまも「変わらないもの」をその記された文面の向こうに感じ取ることが私の楽しみであるのだから。

1.

私は妻やいくつかの動物たちと暮らしているのだけども、彼らがいなければ本当に変化のない、季節だけが微妙に移り変わっているような、静止した日々を暮らしていることになる。

食べていくには十分な蓄えもあるし、突然の大きな支払いがあることもない。清潔な衣類やナチュラルな食材、適度な室温の維持など、快適に肉体が生を維持するだけのことにさほどコストはかからない。

私は自己のなかに存在しているから、必要とするものが本当に少ない。世の中の人々のようにいつも心が落ち着かず、それを別の何かで気を紛らわせるための散財をする必要がない。

暮らしているのは100年以上も前の建物であるから、たまに補修が必要になることもあるけども、これまでの人生で様々な職業を経験してきたこともあって、大工仕事や電気工事など全部自分で片付けてしまう。

2.

だから私だけがひとりで暮らしているならば、それは大海で漂っている船のようなものであり、私という安定のなかにすべては予定調和される。ライプニッツ的に言うならば、私の持っている経験や行為でさえも神の秩序となるのだろう。

だけどもそんな日々に妻や動物たちが彩りを与えてくれる。

妻は突然思い立ったように壁の色を塗り替えたり、独創的な料理をオーブンを前に楽しんでいる。彼女はそこにあるものを使っていつも何かを生み出している。

また猫と犬たちは広い屋敷のなかで豪快な鬼ごっこを繰り広げて、家中のものを次々とひっくり返していく。もちろん後片付けは私の日々のルーチンに組み込まれている。

3.

さていま書斎でこれを書いている。

エリカバドゥを流しながら朝食の支度をしている妻の様子がキッチンの方からうかがえる。準備ができるまで犬たちと散歩に出よう。爽やかな空気とともに並木通りを歩いてこよう。

長年暮らしているこの家、壁や匂い、古い書物、透き通る青空や木漏れ日、そして妻や動物たち。

私という空間に現れた愛すべき不条理たち。彼らは本当は何者なのだろうか。

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