緑色の帽子
知人の女性の話でね
数人で大きなショッピングモールに
訪れていたときのこと
華やかに並ぶ店先のディスプレイのなかで
彼女は緑色の帽子に目が留まった
濃くも薄くもなく上品な色味で
たしかにどんな服にも合いそうな感じで
そこにいたみんなの評価も上々だったが
それは他の帽子より倍近い値札がつけられていて
断念せざるを得なかった
ところがその緑色が与える
インスピレーションに虜になった彼女は
しばらく考えた末
別の似た色の帽子で妥協することに決めた
彼女はこう言った
その帽子自体ではなく
緑色の帽子という発想そのものが
きっと今回の出会いだったのだとね
1
さてそうして何日か過ぎて
再び彼女と会うことになったのだけども
するとあの最初にみたほうの帽子を
かぶっていたわけだ
「結局高くついたのよ」と
苦笑いをしていたが
妥協した帽子をかぶってみても
あの素敵な気分にはなれず
自問自答を繰り返した果てに
一念発起して買いに出かけたらしい
こうした話は私たちの誰でもよくあることで
彼女のような購入品の判断であれ
就職や引越しや結婚みたいな
今後の人生の決める選択であれ
ケースは様々だが
つまり当初の目標があったが
気後れしたり怖気づいて
別の何かを選んだことにあとになって後悔し
そして長い遠回りの果てに
最初に目指していたものにようやく辿り着く
そして大体は
「はじめからそれを選んでおけば
余計な損はなかった、もっと近道を歩めていた」と
考えたりするわけだ
だがその近道とやらが
本当に最良の人生だろうか?
2
たしかに彼女の帽子は高くついてしまった
元々の値段も高かったが
それ以上の対価を払うことになった
その意味でいえばコスパやタイパといった
いまの時代の風潮であるような
つまり費用対効果至上主義的な
合理性や効率性からは完全に外れているが
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