手渡されていくバトン、永遠の生命(2)

生まれてから間もなく大きな二つの成長を遂げてきたことによって、いまのあなたの精神が完成した。そのうちのひとつは「自己同一化」だと前回話してきた。つまり自分の肉体は「そう思っているだけ」にすぎず、あなたとは無関係なのだ。

思考や感情もそうであり、本来無関係なものをあなたは自分のことだとしている。それらは後天的に「そう決めたもの」にすぎない。

このように考えてみるとわかりやすいだろう。

たとえば今月にはじめて知り合って仲良くなった友人は、その以前まではまったくの見知らぬ人だった。街でもなんどもすれ違っていたかもしれない。

家族もそうだね。「この人は私の関係者である」という見方も同一化であり、つまりあなたの慣れ親しんだ世界そのものが、あなたによって束ねられている。

そしてこの自己同一化の原理からは、あなたが不死であることを示唆される。なぜなら同一化される対象は、そもそも「あなたではない」からだ。

1.

話が混乱しないように先に並べておく。

1.もともとひとつだった
2.言葉が外から与えられはじめる
3.自分で言葉を使い始める

つまり、もともとひとつだったところに、両親や育てられた環境といった「外部」から言葉というものが与えられる(まずここが重要だ)。そうして言葉を覚えていくうちに、自分で言葉を使い始めるようになる。

言葉を自分で使い出していくと、自分自身も含めて「もともとひとつ」だったこの宇宙はがどんどん分解されていく。世界は様々な事物で溢れかえっているようにみえてくる。それが現実世界だ。

だから同一化できて当たり前なのだよ。暑さや寒さを感じることもそうであるし、そこにあるペンを見つけて、それを使って字を書けたりすることもそう。映画や小説に感情移入したり他者にも共感できることもそうだ。こうして何でも経験できるのは、それはそもそも「あなたとおなじもの」であるからだ。

言葉によって豊かな世界や豊かな知識、文明が存在できる。また愛する人との暮らしも実現される。

だが言葉を介している以上、自ら与えている言葉の意味に縛られる。自分と世界はまったく別のものだという錯覚に陥ってしまう。そうなると、どれだけ豊かな世界が目の前に見えていても、恋する相手が目の前にいても心は満たされない。

人間は豊かな世界を創り出せるけども、それはあくまで言葉という幻想世界においてのみであって、実在である「もともとのひとつ(=大いなるエネルギー)」こそが、満たされる源泉なのだ。

じゃあ恋愛や日々の活動などは「何もないところをつかもうとしているだけじゃないのか」といえばその通り。だから恋愛相手を通じて、言葉が創り出したその意味に閉じ込められるのではなく、その背後に流れるものに触れることが肝要となる。

さてこうして言葉の世界に振り回されてみんな生きているわけだが、この苦しみを乗り越えるには「どうして言葉を自分で使うようになったのか」を理解しておくと、大きな飛躍となるはずだ。

というわけで話を進めていこう。

2.

生まれて間もない赤子が鏡像段階を経て、世界との自己同一化を達成したあと、もうひとつの大きな成長である「言葉を覚える」という段階がくる。ここに「現実上でのあなた」、つまり考えるあなたが生まれる。

「自己同一化」とセットでみてみれば、同一化する対象を、言葉の習得によってそこに映し出しているという「セルフ現実」の構造ができあがることになる。

言ってみれば、映画館があなたの意識世界であり、舞台には何でも映せる真っ白なスクリーンがある。それが「同一化」だとすれば、そしてそこに投射されるフィルム映像が「言葉の世界」となる。

だからあなたは「一軒の映画館」としてこの現実世界を体験していることになる。

3.

ここからの話の前準備として、まず言葉とは何なのかについて理解しておこう。

言葉はまず外部から与えられると話したが、つまり「膨大な言葉のデータ」が、あなたが自己意識を獲得する前から存在しているということだ。

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