向こう側

あなたの人生はあなただけのものだ。

これは他の人にも自分と同じように人生があって、ひとつの同じ世界をそれぞれが見ているということではない。

ここにはあなただけの世界しか存在せず、その友人も人生で関わるすべての人々も、またあらゆる出来事やふと見あげた建物の形でさえも、すべてあなたのなかに存在している。この理解に近付くためには日常の身近なところから「崩していく」必要がある。

1.

たとえばそこに赤いリンゴがあるとする。あなたは「綺麗な赤い色だな」と思っているが、隣にいる人は「濁った赤色だ」という。このような状況はよくあるだろう。逆にいえば、このようにそれぞれの意見が交わされるから、あなたは「自分は他人とは違う」と思っているのだ。そうして自我が形成される。

さてそのリンゴだけども、あなたと他人で「見えかたが違う」わけだ。それを考えていくと、色だけでなく形も違う印象として受け取っているのかな、連想する味や歯ごたえも違うのかな、といった具合に「それぞれのイメージに分かれている」ということに気づく。

じゃあ受け取り手のイメージではなく「本当のそのリンゴ」はどのようであるのだろう? その本当の姿はどうやって知ることができるのか。

2.

ここで2つの事実が浮上する。

「リンゴ自身の存在」と、「リンゴが存在している」という「あなたの受け取り」だ。前者はリンゴそのものが自分で持っている存在のことであり、後者はこちらがリンゴに与えている存在性のことだ。

まずはここまでを理解しよう。私たちが見ている世界とは、私たちの方から「それが存在している」と投げかけたものの集まりでしかないということだ。

つまりリンゴを見るとき本当のリンゴが見えているのではなく「見るリンゴ」が見えているのである。視線はまったくリンゴ本体に届いていない。つまりそれが「リンゴ」であると認識されている時点で「知るリンゴ」を述べているだけでしかないということだ。

となると、本当にそこにあるのは「リンゴなどではない」ことが推測されてくる。

3.

話をさらに深めていこう。

自分は「綺麗な赤いリンゴだ」と思い、他人は「濁った赤いリンゴだ」と言ったけども、その他人の姿でさえも「見る他人」を見ているにすぎず、つまりその人の言動も「聞く他人」を聞いていることになる。

つまりあなたはそこに「他人を見たり聞いたり」しているけども、それはまったくその本人ではないのだ。そしてリンゴと同様に、それが「他人」であるという時点で「知る他人」を述べているだけでしかない。

だからリンゴも他人も実在しておらず、本当はそこになにがあるのかを決して知ることはできない。「なにもない」という「なにか」をリンゴや他人の姿としてそこで体験しているのだ。

4.

これは時間の経過も同様にいえる。

たとえば壁の傷をみて「ああこれは先週に掃除機の先をぶつけたものだ」とあなたは思い出す。だがそれも「浮かぶ記憶」を述べているにすぎない。本当にそんなことがあったのかがわからなくなってくるから、家族に聞いてみれば「ああ、それ先週にぶつけたものだね」と答える。だがその家族の姿も「見る家族」を見ているだけなのだ。

さあどんどん現実から引き剥がされてきたね。

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