現実を組み替えるためのヒント
何をどのようにやってもうまくいかない。うまくいったとしても、いずれそれがどこかで崩れるんじゃないかという不安がつきまとう。
「人生はいつ安心できるというのだろう、これじゃ一生安らかになれない」そう思ったことはないだろうか。
それはその通りなのだ。なぜなら「うまくいかない」ゆえに出来事は存在できるからだ。
1.
あなたの生きている世界はすべて「言葉」でできている。五感もすべて言葉として受け取っているし、感情も思考も場所でさえも、すべて言葉としてあなたはそれを知る。もちろん目の前にいる美しい異性もあなたの言葉の「集合体」となる。
これは一見「X」というなんらかの事象を言葉として翻訳して受け取っているように思えるが、実際はそうじゃない。Xという事象があるだろう、ということでさえも言葉ゆえに、言葉以前には「なにもない」のだ。
だからすべては白紙の画用紙のうえに、あなたが好きなようにペンで描いた世界でしかない。それらを消し去ったら「なにもない」のである。100パーセントの空白だけとなる。
たとえばガラスのお皿を落として割ってしまったとき、その割れたガラスのお皿をどれだけ観察してみても「割れたガラスのお皿」という言葉以外のものを見つけることはできない。その言葉ではない「割れたガラスのお皿」という実体はどこにあるのだろうか。
そんなものどこにもないのだよ。
2.
冒頭の「うまくいかない」の話に戻ろう。
なぜうまくいかないのかといえば、現実のすべては言葉の絡み合いであり、つまり「論理的なルール」に縛られているからだ。論理といっても学問的なことばかりを指すのではない。
もちろん文学であれ科学や数学であれ、様々な学問の正体とは「論理というルールで分けられたもの」であるけども、あなたの日常生活も論理的なルールに従ってそこに見えているものである。
たとえばガラスのお皿を落とせば割れる。他人を罵倒すれば相手は怒る。「嫌な思い」をすれば「嫌な気分」になる。「良い出来事」があれば「良い気分」になる。
このように物事に限らず私たちの思考や感情でさえも「言葉の世界」が表現されたものであり、その言葉たちが「ルールというまとまり」をしているから、出来事を体験していることになる。そのルールというまとまりが論理というものだ。
それはコンピュータープログラムとなんら変わりはない。よくSF映画などが現実を物語っているようにみえて「私たちの世界はプログラムだ」などと比喩されるけども実際はその逆であり、コンピュータープログラムのほうが我々の現実の論理ルールを模倣して作られたものだから、当然同じようにみえるのである。
だから「私たちの世界はプログラムだ」というのは正解であるのだ。
3.
人間の現実を司る論理ルールは原則として「三段論法」がベースとなっている。
・人間はいつか死ぬ
・私は人間だ
・だから私はいつか死ぬ
つまり私は死ぬわけだ。論理上ではね。
もちろん死ぬのだろう。なぜなら先の「落として割れたお皿」という言葉と同様に「私は死ぬ」という言葉以外にその事実を見つけることはできないからだ。つまり言葉が死ぬのだ。そのルールによってね。
ところがだ。
この論理ルールの世界は完璧ではない。欠陥がありまくっている。たとえば矛盾という言葉がある。そのままの語源を引けば「何でも貫く矛が、何も貫けない盾を刺したとき、どうなるのか」というものだ。
もちろん現実には矛盾があってはならない。なぜなら現実が成立しないからだ。
でもおかしいね。この「成立した現実」のなかに、なぜ「現実を成立させない矛盾」というものがあるのだろうか。「それは矛盾という概念としてあるだけだ」といったところで、先の「落として割れたお皿」も概念だ。言葉が論理として表現されているにすぎない。
つまり矛盾の存在は現実が論理でできていることの証明であり、真なる世界とは「論理などの枠におさまるものではない」ということを示している。
論理世界とは「頭のなかの世界にすぎない」ということだ。ゆえに現実を変更するというのは、頭の中を組み替えるということに他ならない。
固着したルールを違うものに変えること。ものの見方を変えること。矛盾(=パラドックス)がある限り、それはいくらでも可能なのである。
4.
さて現実が「うまくいかない」のは、全体という「100パーセント」のなかで言葉を論理的に組み替える限界があるからだ。それは「言葉そのものが制限されたもの」であるがゆえに、それをいくら積み上げても、全体の「100」には達せず、99.9999999……という無限加算にしかならないことに起因する。
どうして100という確定した枠なのに、そのなかで無限の加算が起こるのかといえば、もちろん私たちが論理という形式で物事を捉えているからだ。
それがパラドックスといわれるものだ。
「この国のひとはみんな嘘つきだ」とその国の人が言うとき、それは本当なのか、嘘なのか。どちらも確証が取れない。つまり現実が「うまくいかない」のはこれと同じパラドックスにはまっているのだといえる。
たとえば「ゼノンのパラドックス」というものがある。
ゼノンという2500年前のギリシアの哲学者が考案したいくつかのパラドックスなのだけども「アキレスと亀」という話が有名だ。足の速いアキレスが逃げる亀を「論理上では決して追いつくことができない」というものだ。
だがアキレスと亀をもっとシンプルにした「二分法のパラドックス」という話が「100」という有限性のなかで「なぜ無限加算が起きるのか」ということを理解しやすい。
もちろんパラドックスを解くことを伝えているのではない。私たちの現実の有様を浮き彫りにするためにこれを書いていることを忘れてはならない。
5.
二分法のパラドックスとは、たとえばゼノンが1km先のコンビニへ向かおうとしている。時速1kmの速度で歩くとしよう。つまり1時間後にはコンビニに到着している。
ところが、ちょうど半分の500mの地点でふと考えたわけだ。「いま半分まで歩いた。つまりあと500mだが、また道中でその半分に到達するはずだ。」
1km先のゴールを目指す
500mの地点で半分到達
そこから250mの地点で半分到達
そこから125mの地点で半分到達
さらにそこから62.5mの地点で半分到達
さらにそこから31.25mの地点で半分到達
さらにさらにそこから…..
このようにしていくらでも半分に分割可能であり、途中の到達地点は無限に増殖していくことになる。もちろん最後はミリ以下の単位となるのだけどもね。だがここで重要なのは、それらをいくら繋ぎ合せても100には決して到達しないということだ。
つまり1kmという「有限のなかに無限がある」という奇妙なことになり、ゼノンは「私は動きながら止まっているみたいだ。コンビニには一生到達できない!」というクレイジーな証明をしたわけだ。
この不幸な見解は、現実という海でいつも漂流しているあなたの嘆きと同じものである。
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