彼女の世界

同じ内容について書いてあるのに
印象がまるで違う文書があったりするだろう

たとえば何かの説明書だね

ある製品の説明書はとてもわかりやすいが
同じ用途の別のメーカーのそれは
なんだかとてもわかりにくい

プレゼンや販促品の制作もそうで
核心部分をいかにして
誰でもわかるように伝えるかが焦点となるわけで
同じことを伝えるのに
熟練の先輩と新米とでは
その”出来”は大きく違うものになる

こうした
同じ内容なのに違う印象を与えるもの
わかりやすさ以外にもたくさんある

たとえば”同じ題材”を扱った小説があるとして
ある作者の書き方はとても美しくて
言葉少なくても情景が溢れ出てくる

また別の作者は
さまざまな暗喩を交えながら
緻密で奥深い世界を造形している

どちらも読み直すたびに味わいが変化するが
それはその作風や文体だけでなく
読み手である己のその時々の心境や条件が
加味されるからでもある

相互に影響しあって
ますます魅力が増すことになり
一生そばに置いておきたい珠玉の作品となる

もちろんそれらと同じ題材なのに
薄っぺらで一度読んだらもうおしまい
といったものもいくらでもあるだろう

こうしてみれば
題材そのものは重要ではないことがわかる

それをいかに詩的に
つまり芸術的に表現できるかにあり
むしろその表現の違いこそが
作者の数だけあるというわけだ

当たり前といえばそうだが
忘れがちな大事なことなので
しっかり覚えておこう

同じはずのものが
その”見え方”を千差万別に変えるわけだね

説明書やプレゼンも話したように
その内容がなんであれ
いかにそれを明瞭に伝えられるかこそ
制作者の腕の見せどころとなる

 

世界の”原因”

さてここまでを踏まえてみれば
たとえばあなたが
毎日の暮らしを送っているなかで

毎朝起きて仕事に出かけたり
雑貨や花を買ってみたり
人と交流したり
そんな「誰にでもよくある人生の光景」が
独特の喜びに彩られるのは
いかにそれを”あなたなりに表現したか”
にあることがわかる

つまりどんなことでも
そのままでは「ありきたり」であって
見過ごされていくが

しかしそれが「ありきたり」でなくなるのは
あなた自身がそれに対して
独自の意味や飾り付けを与えるときにある
ということだ

たとえば家族との毎度同じ交流に
辟易しているならばそれはそこに
独自の世界観を表現していないからにある

わかりやすい例なら
ある女性が
「自分は早口でなんだか会話に落ち着きがない」と
自覚しているとしよう

もちろん誰かを前にしているときは
話す内容にばかり向いてしまって
そんなことは忘れられている

この女性にしてみれば
ひとりでいるときはそれなりに楽しいのに

家族と言葉を交わしたり
窓口で担当の人と話をしたり
またレジで「袋ください」なんて発言するたびに
気が滅入ってしまうことになる

他人と関わるたびに疲れるわけだが
その理由を考えたところで
大体は「つまらない内容のせい」
さらには「相手のせい」になったりもする

だが世界が色褪せて重苦しくなって
自分も疲れてしまう本当の原因は
それは彼女も時々自覚していること

つまり
「早口で落ち着きがないしゃべり方」を
無自覚にしているからなんだ

 

彼女の世界

自分がなにかを話すとき
それを聞いてるのは相手だけではなく
自分も自分の話を
話しながら無自覚に聞いているのであって

彼女の場合なら
その”ループ”のなかに
どんよりした世界が現れる

もちろん相手に話を聞いてもらうことに
心は向けられているから
無意識裏に「落ち着きのない早口」を
聞き続けている状態にあるが

しかしそうして無意識であるほど
受け取られるものの影響は大きくなる

なぜなら無意識であるがゆえに
それを回避したり
捉え直したりができないからだ

つまり”現実”は
こうして無意識のうちに描かれているわけで
無意識に生み出してる世界のなかを
自らでさまよっている様子にある

じゃあこの無意識な世界から
どうやって逃れることができるのかといえば
それはもちろん”意識的”にならねばならない

だがこの意識的というのは
他人の目を意識することではない

それはすでに無意識に生み出してる他人を
意識しているのであって
無意識な世界からなにも逃れていないからだ

そうではなく
まさに上で話したように
新しい表現で彩っていくことにこそ
意識の光が無意識の闇を追い払うことになる

ゆえに彼女は自分の口調に
いつも注意を向けている必要があるけども
それは「そうならないようにしよう」と
ただ抑えつけることではなく
つまり日頃と同じ物事や会話であっても
それを反射的に受け答えして
自らそこに染まるのではなくて

新しい言葉づかいや口調で
表現してみる
ということにある

たとえば優雅にゆったりと
ひとつひとつの言葉を楽しむように
話してみるとき

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