情熱

仏教に作務という修行がある
食事の支度や掃除などのことだが
ただやるのではなく
「どうやるのか」という
心の姿勢が重要となる

心をこめてやれば
それとひとつになる

言い古された表現だけども
ここに私たちが解き放たれるための
真髄があるのだ

 

1.

私が学生だった頃
ほんの短い間だったけども
年上の女性と付き合っていたことがあった

彼女は地方から出てきた大学生で
同じ出身の友人と
2階建の貸し家で暮らしていた

けれどもその同居の友人に恋人ができて
ほとんど家には戻らず
出会ったのはそんな頃だった

はっきりと覚えている
ピンクがかった綺麗な夕方の空
堤防で寝そべって煙草を吸っていたとき
自転車の後輪を持ち上げて
せっせと運んでいる彼女を見かけた

ただ自転車屋は川の向こう側にあって
結構な距離だ

少し考えてから
恐る恐る声をかけてみることにした

当時の私は教師はおろか
友人たちとも歯車が合わず
いつもひとりだった

そのせいか人と関わることに
妙な抵抗感を抱えていた
普通に会話ができず
普通に笑うこともできず
ぎこちなさをいつも感じていた

だがそのときは少しの展望があった
それはその自転車屋の店主の爺さんは
幼少からの顔なじみだったからだ

そしてなにより年頃の私にとって
見知らぬ異性に話しかけるという
ちょっとした冒険
その機会に乗ってみたかった

家庭での面倒ごとを抱えていて
そのせいで周囲と話が合わず
楽しく過ごしているクラスメートたちの姿に
ただ虚しさを感じるだけの日々だった

もちろん内心は
みんなと同じように楽しみたかった
だが現実がそうはさせてくれない
自ら暗闇に閉じこもっていくのが
いつも感じられていた

だからその殻を破りたかった
何か一歩が欲しかった
そんな決意で声をかけてみたのだ
さりげない顔をしてね

それから彼女との日々がはじまった
漆黒だった心に光が生まれた
毎日が嬉しさに溢れるようになった
楽しくてたまらなかった

彼女は私にいろんなことを教えてくれた
音楽や小説、映画、人生観、
いまの私の基礎になるいくつかは
彼女から授かったともいえる

キッチンの椅子に腰掛けて
いろんな話をした
朝まで語り明かしたものだ

月夜の暗い部屋で酔っ払って
裸でバイオリンを弾いてくれたこともある

その白黒の美しい光景は
褪せることなく
いまも焼き付いている

私は恋をしていた
たぶん彼女もそうだったと思う

 

2.

いまはどこで何をしているのか
わからない
死んでいるかもしれない

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  1. tamatama3 より:
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    • 涅槃の書-自分 より:
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2014.01.02    Notes , ,