ろうそくの灯火

私がまだ幼かった頃
近所にちょっとしたお屋敷があって
そこに同い年の女の子が住んでいた

一緒に登下校をしたり
家にも何度か遊びに行ったこともある

家にはいつも彼女のお母さんとお婆ちゃんがいて
夏休みなんかは
スイカやかき氷をよくご馳走になった

それからしばらくして
私のほうが引っ越すことになり
大人になってから彼女と再会したのだけども
思えばそれも夏だったが
久しいお母さんやお婆ちゃんの思い出話を
いろいろ話してくれていた

そのときはもうご両人は亡くなっていて
私の顔をみたときに懐かしいあの夏休みの
みんなでスイカをかじっていた光景が
よぎったからだと微笑んでいた

──

あとねえ、お婆ちゃんがイチジクが大好きで
でもお母さんはイチジクが大嫌いでね

よく縁側でお婆ちゃんが
「病気予防にもなるから食べたほうがいいんだよ」
とお母さんにいってたけど
「いらな〜い」っていつも逃げてた

──

そんな彼女の話を聞きながら
ああ、あの縁側だなと
脳裏に浮かんでいたのだけども

同時にあの2人は
もうこの世にいないのだという
不思議な気分にも包まれていた

イチジクの会話の光景だけが
こうして残されているが
まるで夢をみていたかのように
それを語り合ってた本人たちは
どこにもいないわけだからね

そして先日
その幼馴染だった彼女の葬儀に行ってきた

いまや彼女との思い出だけがあり
しかし彼女はもういない

つまり彼女が見ていた
お母さんとお婆ちゃんの語り合ってた姿

「これ食べたほうがいいんだよ」
「いらな〜い」

そんな親しい家族の光景だけが
彼女に残されたように
そのことを健気な笑顔で話していた
彼女の幻だけが私に残されている

夜の街の賑わいのなかで
少し酔っ払ってた彼女の映像だけが
いまここにある

 

ところで
ろうそくはやがて燃え尽きて消えてしまうけども
しかし灯した火は
別のろうそくに分け与えることができる

火は分け与えたからといって減るわけではない

つまり”同じだけの光”を
いくらでも分け与えることができるのであって
なにより己が消え去ってもその光は残る

たとえば彼女は私に光を分け与えてくれたが
あなたもまたこうして私の思い出を聞いてくれた
つまり私が消えても”光”は消えないわけだ

この話だけのことではないよ

私と出会ったことであなたに灯った光は
他にもたくさんあるからね

私との直接的なことでなくても
私と関わったことで
他のなにかへの関心や経験ができただろうし
生活が変化したかもしれない

つまり分け与えられる光とは
具体的なことではなく
その奥にある”なにか“であり

そしてそのなにかこそが
ずっと私たちのなかで受け継がれているんだ

言いかえれば
お母さんもお婆ちゃんもそして彼女も
“光”を伝え導くために
それぞれの姿をもって現れていたわけで
むしろ彼らは光の「現れ」にあるといえる

同じく私もあなたもそんな”聖霊たち”にあるが
その役目は光を絶やさないことであり
それは己が光であることに気づき
それを忘れないことにある

だから本当にここにあるのは光だけなんだ

ゆえに大事なことは
ろうそくの光が分け与えても減らないように

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