唯識と脳と現実変更(6)

右脳的生活が深まるにつれて、この世が本当はどのようなところであるのかを知るようになる。釈迦はそれこそが悟りの境地であるとして「涅槃」や「菩提」と呼んだ。

この2つを順に話しておこう。

まず「涅槃」とは左脳の忙しなさが落とされて現れる「安らぎの境地」のことだ。認知科学でいう安静時の脳活動のことだが、それは脳内で完結するものではなく、広大無辺なシーツのゆらぎ(大いなるエネルギーの流れ)そのものと同化することによって感得するものとなる。

連載のはじめに、私たちの存在とはその巨大なシーツの「ほんのごくわずかなシミ(種子)」だといった。

人生で経験するすべて(他者の姿や言動、日々の物事など)、つまり五感で受け取るすべて、心で感じるすべては「シーツのゆらぎ」が、私という種子を通じて現れているものであって、本来すべては「ひとつ」なのである。

この「ひとつ」であること、すべてはそのゆらぎであることを知ることが「涅槃」となる。

1.

すなわち、日常生活で体験する「リラックスできた」とか「癒された」とか、また恋人に「愛されている感じ」といった安静的な脳波が起きているときこそが「ひとつのゆらぎ」が前に現れているのであり、もちろんその「融合」はいまもずっと背後に流れている。

この「ずっと背後に流れている」というところが重要であり、それは私たちの側からは誰も消え去ってなどおらず、いまもずっと一緒にここにいるということでもある。左脳の「処理」がそれを見させていないだけなのだ。この左脳の処理についてはあとで詳しく書いていく。

人は幸せになりたくて躍起になっているが、それは執着(左脳の活動)を落とすだけでよかったのである。幸せとは「ひとつ」に戻ることであり、何かを手に入れることではなかったのだ。

2.

そして釈迦の悟りのうちのもうひとつである「菩提」とは、そうした涅槃の境地(本来の私たちの姿)を思い出したうえで、この世に自分が存在している(この世がこのように見えている)本当の意味を見定めるということにある。

先の解説と被るが、心臓も胃腸も髪もすべて自然のサイクルに流れているが、そうして肉体が自然的に動いているのは、それは自然という光景が実在しているのではなく、「シーツのゆらぎ」が、私たちの種子によって翻訳されて見えているものでしかない。

前回にも言ったように他者を鬱陶しく感じたり、主張を押し付けようとしているとき、それは何をしているのかに気づかなければならない。

同じ一枚のシーツによって生まれた己が、同様に生まれた他者を拒絶しているのだ。しかも重大なのは、いま起きた一回のゆらぎのなかに、己とその他者が含まれているということである。

「じゃあ運命は決定しているのか」というなら、この連載の自由意志を話したところを読み直さなければならない。自由意志とはゆらぎを変えることではなく、そのゆらぎが「どのように見えるのか」を変えられる自由にある。

これが「菩提」なのだ。

3.

よってこの世のすべては「左脳世界」のものであり、常に高次より遅れて現れているものとなる。

広大無辺のシーツのゆらぎ(以降、「大いなる流れ」に呼び方を変える)→阿頼耶識という分離した範囲(己の魂のこと)→末那識という執着プロセスに感化された顕在意識(左脳世界)

これが高次から低次までの「あなたの全貌」であり、つまりこの概略を理解することこそが「菩提」という観点の基礎となる。

空海も白隠もルーミーもマイスターエックハルトもみんなこれを知っていた。もちろん宗教に限らずあらゆる分野で活躍している人たちの多くが、これに気づいている。

巨大投資家のジョージソロスなんかはまさにそうだろうし、ビジネス界ならビルゲイツやイーロンマスク、歴代の哲学者、科学者もそれを匂わせている者は山ほどいる。最近の日本じゃイチローや須藤元気なんかもそうだ。

彼らはいつも順調だろう? つまり「菩提」を理解することで、この世をどのように生きていくべきかが見えてくる。

4.

さてこの連載を締め括るところへ入っていこう。望みの世界を実現する方法だ。

だがまず「右脳的生活」が前提にあることを忘れてはならない。人々は「左脳的生活」に閉じ込められているが、その中からでは自由を見出すことはできないからだ。

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