使い捨てロボットが意志をもつとき-7

人間の毎日をひと言で表すなら「面倒」以外の何ものでもない。やらなければならない義務感に追われて、そして「人間的な手続き」の繰り返し。たとえば対人関係、労働、支払い、夕食の準備、立てられた予定の数々、片付けなければならないあれやこれ。

人生とは混雑したデパートのトイレの行列にずっと並び続けているようなものだ。すっきりしたいのに待たなければならない。でも生理的なものがなければ、そもそもすっきりさせたいとも思わないのに。つまり自らの意志とは無関係なものに振り回され続けている。肉体が命令を出して、その欲求を叶えるには、たくさんのことを考えなければならない。

人はみな寿命がきて天井を見上げながら、もうトイレの行列に並ばなくていいんだと肩を下ろす。日頃から自殺を考えている憂鬱な人たちは、単にトイレの行列に並ぶことにうんざりしているだけなのである。

毎朝目を覚ませば、見飽きた世界、しけた光景がまた広がっている。いつものようにキッチンに立つ。小窓から差し込む陽光の感じに、時折はっとする何かが湧き立つけども、それがなんであるのかを考え始めると、もうその感動は消え去っている。写真にその感動を収めようとしながら、本心は自分をごまかしていることに気づいている。感動はもはや作業でしかない。

自然はときにひどく美しい。まるで私たちに見てもらうためにその美しさを放っているようにも思える。だけども自然そのものはなんら目的を持っているわけではない。それはただあるだけなのであり「自然のメカニズム」なるものは人間が理解しようとするために与えた「合理性」を、自らで見ているだけでしかない。自然がなんであるかを考えたとき、もうそこに自然はないのである。

光明をもとめて

自分を忘れる瞬間がある。だからひとはアルコール、刺激、喜び、恋愛、楽しみを求める。大好きな彼と抱き合ったとき、美味しいものを食べたとき、欲しいものをみつけてうずうずしてるとき、音楽に包まれて踊るとき。それらは思考は静止してくれる。いつもの重たい頭部は放り投げられて、とても身軽になれる。その軽やかさといったらまるで天使の羽が生えたかのようだ。すなわち「没頭」であり、「考えること」から離れたときの無頭人の様子である。

それはまさに「自然の美しさ」に迫っているのだ。肉体は自然の一部となり、本来のあるべき空間に還されて、大きな流れにただ委ねられているだけの光景がそこにある。どうしてお金持ちになりたいのかと自問してみたら、正しい答えはこうだろう。「お金について考えなくてよくなるから」

ただし「お楽しみ」には必ずツケがくる。

酒や刺激は最初のそれだけじゃ思考を麻痺させることができなくなる。娯楽もグルメも「2度目はパターン」となる。常に新しいものを追い求め、どれだけ金持ちになってもやはり満たされていない。

いつも何かを考えている。それはもちろん、考えることが人間であるということだからだ。私たちは実体を持たない、考えることそのものなのである。ゆえにこの苦悩を「解決すること」はできない。ただ強大な刺激を探し歩くだけ、もっと強烈なブツがほしいと願うだけ。完全に自分を溶かしきるようなやつを、とね。しかしその行き着く先はいったい「どこ」なのだろう。

翌月のカードの請求額に震えても、大好きな彼への不信感を募らせても、「でも楽しんでいるんだから」と自分をごまかしながら、己の思考を麻痺させてくれる何かのために人は生き続けている。

これじゃ生きている価値がない。そもそも価値なんてものはないのかもしれない。補給と排泄のために多くの活動を余儀なくされる。すべては宇宙が循環するためだ。いや逆だね、循環しているから「私」はここで生命活動を感じているのだ。だが肉体が消耗したら用なしであり、使い捨て、お役御免ってやつだ。

だが困ったことに私たちには「心」というものがある。そこで禅は言った。「生きながら死んでいること、そこに光明がある」

ならばその光明とやらを探してみよう。時間は寿命まで許されているのだから。

生きるという矛盾

さて生きながら死ぬとはどういうことか。はっとする自然の美しさが無思考によるもの、それは人間の「生」の外側にあるもの、すなわち「死」であるならば、あの自然のようにあれということだ。

現実の面倒をわすれたい、何も考えたくない、そのために、せっせと現実での手続きを続けなければならない。私たちの世界はそんな面倒の繰り返しを続けている。つまり「死ぬため」に生きる活動を続けているといえる。

ならば単純に命を落とせばよいのだろうか。ビルから飛び降りたりすればよいのだろうか。私たちは毎晩深い眠りに入るけども、あれはなんだろう。どうして目を閉じているのに、映像が浮かぶのだろう。いまこうしてMacの画面を眺めつつも、ここにはない光景を鮮やかに想像したり思い出したりもできる。

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