使い捨てロボットが意志をもつとき-6

探偵というのは、昔から子供たちのなかでわりと憧れの職業だったりする。もちろんテレビアニメやシャーロックホームズなどのベストセラーの影響もそうだが、大人ならばハードボイルドな雰囲気に惹かれるのかもしれない。実際の業務内容は浮気調査とかばかりらしいけども、今回はいつもの堅い雰囲気から離れて、小説や映画に出てきそうな理想の名探偵像を浮かべて話を進めていこう。

さてそんな名探偵の道具とはなんだろう。虫眼鏡? トレンチコート? 消音化されたピストル? 

いいや、もっと大事な道具ある。それは推理力だ。

しかし推理力とはなんだろうか。特別なスキルのような気がしないでもない。それゆえに名探偵になれるというふうなね。

だがこの名探偵が日頃使っている推理力というのは、一般人である私たちもごく日常的に使っているものなのである。それがあるから普段の生活ができているわけであり、そして現実に囚われてしまっているともいえる。

名探偵がある事件現場に到着したところをイメージしてみよう。あなたは彼の新米助手である。

彼は現場の状況を観察する。割れた窓ガラス、荒らされたクローゼット、そして横たわる遺体。現場に残された様々な証拠、そして被害者の相関関係を集めていく。

推理の方法

さて名探偵はどのように調査を進めただろうかといえば、前回のアリストテレスの範疇論で示された「10の規則」を駆使して、証拠や関連資料を集め、それらを並べたり組み替えたりして、ひとつの結論に結びつけていったのである。

アリストテレスの10の規則とは、「これはガラスの破片だ」「ドアには鍵がかかっていた」「被害者は一度も外に出ていない」という基本的な認識判断のことだ。そうした「認識」を並べたり組み合わせて「推理」という構造を立てていく。

助手のあなたがみていると、彼が行う「推理」にはいくつかのパターンあることがわかってきた。

そのうちのひとつは数々の証拠や関連資料という事実を並べて、それらの類似性、近似性、共通性を比較し、それらの共通した法則性をあぶりだしていく。すると最初は見えなかった「ある像」がだんだん浮き上がってくる。つまり数々の証拠から、ある人物像が出てきたのである。そして彼は言った。「こいつが犯人だ。」

ところが。

意気揚々と容疑者のまえで証拠を突きつけてみると、なんと集めた資料には含まれていない、彼のアリバイがあったのだ。犯行時刻、彼は数百キロも離れた街にいた。犯行は無理だ。

オフィスへ戻ろう。

つぎに彼が進めた推理とは、ある「仮説」をつくり、それが本当に正しいかどうかを、証拠や資料を当てはめて、その仮説が通るかどうかを確かめていくという方法だった。

これには時間を費やした。いくつも仮説をつくりだしても、なかなか証拠や資料がそれを立証しないからだ。だけども、なぜだか楽しい作業ではあった。

1つ目のやりかたは、じっとにらめっこをしながら、確かに「ある像」が浮かんできたけども、本当に犯人なのかなあ、という疑惑が拭えなかったわけではない。ただ証拠や資料から洗い出す作業をひたすら繰り返すことによって、そしてさらに関連資料を集めてまわることによって、その「平均値」的なものが、どんどん集約されていったようなものだった。そうして「確信」を強めていった。でも結果的は「手持ちじゃない情報」によって、その集約があぶれてしまったのだ。

それに比べて、2つ目の方法は創造的だ。確かに犯人という真実に辿り着かなければならないし、犯人は絶対的に存在している人物なのだけども、まるで犯人をこちらで創り出しているような(もちろんそうであってはならないし、そんなことがありえるわけがない)手際の良い、そんな流れに乗った調査の進め方だった。

時計の針が午後3時を指すころ、彼は言った。「こいつが犯人だ。」

解決

事件は解決した。犯人は「なぜわかったのか」と始終困惑した様子を隠せなかった。なにより呆気にとられていたのは、助手のあなたのほうだった。まるで真実に導かれるように、名探偵は閃くがままの仮説を見出し、そしてそれにぴったり合致するように証拠が合わさったのだ。その神がかった様子をあなたはずっと隣で見ていた。

もちろんその歯車にうまくかかるまでは、何度もやり直しが必要だったけども、そのうちそれが「かかる」ことを彼ははじめから知っているかのようだった。何の根拠も理由もなかったはずだ。なのに「それで正しいのだ」という妙な自信が、横でみていたあなたにも伝わってきていた。そして見事にパズルははまり合ったのだ。あなたは驚きを隠せなかった。これはある見方をすれば、まるで「犯人を創造した」ようにも思えたからだ。

その創造された瞬間、つまり犯人がわかった瞬間、何か目に見えない力に引っ張られているような不思議な感じがした。そしていつも無表情な彼が、一瞬ニヤリとしたのを見逃さなかった。

「いいかい、この世はすべてかりそめだ」「つまり、この世の裏側にある流れをみつけてそれに乗っていれば、必ず到達すべきところに着く」

これが彼の口癖だった。ただし仕事がうまくいったときに限られる。

探偵メモ1

さて、今回の事件の解決において、いったい彼は何をしたのだろう。もっと具体的に学ぶ必要があると思い、あなたは以後の彼の仕事を詳細にメモに取っていくことにした。以下はそのメモにより判明した、まさに現実創造ともいえる、驚くべき彼の推理法である。

まず彼が最初にやるのは情報収拾だ。可能な限りの証拠や関連資料を集める。そうして「何が起きているのか」を明確にする。

そして次に、基本的に彼は面倒くさがり屋なので、たいていは一番早い方法で事件を片付けようとする。つまりその集めた情報から結論をあぶりだそうとするわけだ。

ただあなたが見ている限り、その方法でうまくいった試しはあまりない。時間も精神力も浪費するだけであり、そしてなにより調査が楽しくない。「もうその方法やめようよ」と言うべきかいつも迷っている。

はじめての事件でもそうだったように、集めた情報の類似性、近似性、共通性を比較して、ひとつの法則性を探す。すると「ある像」がだんだん浮き上がってくる。

たとえばこんな感じ。

「これまで知った情報から察するに、、犯人はあいつしかいない。それ以外に考えようがない。」

この推理の欠点は天井が決まってしまうことだ。つまり証拠や情報の枠を超えることができない。情報が揃うほど「ある像」はどんどん強いものになっていくけども、それもいってみれば、お庭のなかの現実でしかない。だから行き詰まりを感じたら、どんどん情報を集めなければならなくなるが、結局は確信の弱い推測がただ変化していくだけである。

ただ、利点というならば集めた情報を一般化できるということである。つまり色々な情報に基づいたなかから、その共通項的な土台ができる。だから、ある情報がどれだけ全体から外れているかがすぐにわかる。こうして欠点や利点をみていると、まるで「世間そのもの」だな、とあなたはいつも思う。

この方法はとにかく行き詰まりに直面する。ある段階まで行き着くと、それ以上に進展していかない。そうして出てくるのは「まあこんなもんかな」という曖昧な結論しかでない。だからたいていは、決めつけや思い込みの結果でしかないことになる。しかしその推理をやっているときは、彼は自分が「決めつけや思い込みに向かってしまっていること」をまるで気付いていないのだ。

また新しい情報が入ってくるとその平均値が揺れ動いてしまう。つまり「情報に振り回されているようなもの」だ。しかもはっきりとした結論も出るわけでもない。彼のそんな様子をみていると、あの神がかった彼、つまり「神」が消えてしまっていることがよくわかる。

探偵メモ2

というわけで彼が次によくやるのは、あの神がかり、、、ではなく、もうひとつの「困った推理法」だ。それは情報を限定して、そこに別の情報を重ねて結論を導くというやり方である。正直これも全然成果が出ない方法だ。

たとえば、女性から浮気調査の依頼が来たときに「以前も夫は浮気をしていた」「最近帰りが遅いうえに帰宅してきたときに、知らないシャンプーの匂いがする」という証言と、そして今回の証拠品である「夫のシャツ」を受け取った。そのシャツには確かに香水の匂いがする。そこで彼は(報酬が安かったこともあって)即座に依頼人にこう返答したのだ。

「ほう、以前も浮気をしていた前歴がある、そして帰りが遅いうえに違うシャンプーの匂い、、さらには香水のついたシャツがある、、、ずばり旦那さんは浮気をしているでしょう、まあ調べますがね。」

つまり前歴を前提に、別の信用性の高い前提をくっつけて、結論を出すという方法であるけども、この致命的な点は「前提が間違っていたら結論も当然間違っている」ということである。以前に浮気の前例があるからといって、もう懲りてしていないかもしれない、匂いがつくなんて場所はいくらでもあるし、男性の同僚が香水をつけている場合もある。だから前提と前提の合成としては結論に至っているけども、前提そのものが間違えているからアウトだ。

これも「世間」でよくある光景だ。不幸にはまってる人が、何をやっても不幸にしかなっていないのは、まさにこれだといえる。

結局そのあとの調査で、単に旦那さんは仕事帰りに男性の同僚とパチンコ店に寄るようになって、体についたタバコの臭いを消すためにサウナに寄って、そこで違うシャンプーと消臭剤をシャツに振りかけて帰宅していたのだ。数回にわたる実地調査ではどれも同じ行動が確認された。

その情報の結果、とりあえずは旦那さんの浮気疑惑は晴れたといえる。だが確実ではない。なぜなら、たまたま浮気相手のところに寄っていないだけだったからかもしれないからだ。だからすべては集められた情報にのみ従うしかない。つまり依頼が取り下げられずに、この事件を追求するほど、先の「探偵メモ1」の状態にはまり込むことになる。

実際「現実にはまりこんでいる人々」は、この1や2の状態にある。それらのなかに迷い込んでいて、どうして現実が変わるといえるのだろう。いったい何が解決されているというのだろうか。

苦悩は苦悩を超えられない

そしていよいよ、あの神がかりな推理法となる。

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